アクティビストへの備え|『役員人事』に関する5つのポイント

”アクティビスト”と呼ばれる、株式を保有して企業に要求・提言を行う機関投資家の動きが活発化しています。
対立が深まり、株主総会の決議に注目が集まるケースが2023年は多くなっています。

アクティビストの要求・提言は株主価値向上、という名目ではあるものの、長期的な観点を有しているものばかりではありません。

そのため、アクティビストに付け込まれる隙を与えないことが会社側としては重要になります。

その際、執行部門(人事部、経営企画部、総務部、秘書部、法務部)や指名委員会が重要な役割を担います。

それでは、どのような備えが必要でしょうか。役員人事の領域に絞ってお伝えします。

1.アクティビストの要求・提言(役員人事)

2020年以降におけるアクティビストの企業に対する要求・提言は主に以下に列挙したものになります。

  • 役員人事 (※本稿の焦点)
  • 事業ポートフォリオの見直し、不採算事業の売却・撤退
  • 増配、剰余金処分
  • 自社株買い
  • 政策保有株式の売却
  • 買収防衛策の廃止
  • ESG対応の強化

2.「役員人事」に関する要求・提言

役員人事に関して、具体的には取締役や経営陣の現任者・候補者に関する要求・提言は以下の5類型に収斂します。

資質・適性企業成長や株主価値向上の実現に必要な資質やスキル・経験を有していない
2.実績・パフォーマンス企業成長や株主価値向上に貢献できていない、実績が乏しい
3.他社との比較競合他社・類似企業の取締役・経営陣と比べ、相対的に資質・適性・実績等が乏しい
4.多様性(ダイバーシティ)備えるべき多様性を欠き、同質性が強い
5.プロセスの公正性公正・客観的なプロセスが構築・運用されていない
2020年以降の東証上場企業に対する役員人事関連の株主提案内容にもとづきブライツパートナーズ㈱が作成

3.アクティビストに負けないためのポイント

要求・提言時のトーンは様々で、企業に友好的に寄添うケースもあれば、演出的に声高らかに非難・否定するケースまであります。

後者の場合、アクティビストが積極的に情報発信するほか、メディアや招集通知を通じ、株主はもちろん、広く社会の目に触れることになります。

社会や株主が注目する中、説得的な対応ができない限り、アクティビストに対して劣勢にもなりかねません。

 

会社が優位性を保つため、端的にはアクティビストの要求・提言に対して説得力をもって応えるためには「根拠」が不可欠です。

役員人事に関わる部門や指名委員会におかれては、現任者や候補者の人選に関して、計画的に根拠を揃えておくことが重要です。

これまでの事案においては、アクティビストの要求・提言に反論すれども、根拠に参照することなく、つらつらと会社の意見を表するにとどまり、結果的に説得力を欠くケースが少なからずあります。

アクティビストの要求・提言に対する事前の備えとして有効な施策は以下に列挙した通りです。

チェックリストとして、皆さまの会社の状況を振返ってみてください。

(1)「資質・適性があること」を示すため

資質・適性を測る仕組みが構築・運用されていること

a.企業成長や株主価値向上の実現に必要な資質やスキル・経験について自社なりの定義が明文化されている
b.現任者や候補者を対象に上記の資質やスキル・経験を評価する仕組み(評価基準、評価プロセス、報告プロセス)が構築されている
c.上記の仕組みが体系的に運用されている(阻害要因が存在しない)

実際に資質・適性を充足していること

d.現任者や候補者が実際に上記の資質やスキル・経験を有していると評価づけられている
e.上記の評価結果について、その結果に至った理由や根拠が明文化・記録化されている

(2)「実績・パフォーマンスが十分であること」を示すため

実績・パフォーマンスを測る仕組みが構築・運用されていること

a.企業成長や株主価値向上の面の実績・パフォーマンスを測定・評価する指標が定められている
b.上記指標を測定・評価する仕組み(評価基準、測定・評価プロセス、報告プロセス)が体系化されている
c.上記の仕組みが体系的に運用されている(阻害要因が存在しない)

実際に実績・パフォーマンスを充足していること

d.現任者や候補者が実際に十分な実績・パフォーマンスを有していると評価づけられている
e.上記の評価結果について、その結果に至った理由や根拠が明文化・記録化されている

(3)「他社の取締役・経営陣と比べて遜色がないこと」を示すため

ベンチマーク先が定められていること

a.自社にとってベンチマーク先となる競合他社・類似会社が明確に定められている
b.上記ベンチマーク先が投資家にとっても納得感がある適切な企業が選定されている

実際にベンチマーク先の人材と比べて遜色がないこと

c.上記のベンチマーク先の経営陣や取締役が有する資質やスキル・経験が把握されている
d.上記ベンチマーク先の経営陣や取締役の企業成長や株主価値向上の面のパフォーマンスが把握されている

(4)「多様性を十分に有すること」を示すため

a.自社の経営陣や取締役に求められる多様性の内容や方針が明確に定められている
b.上記の内容や方針がステークホルダーの多様性に関する要請・期待を踏まえた内容となっている
c.実際の構成が実際に十分な多様性を有している

(5)「プロセスが公正であること」を示すため

a.独立社外取締役を中心とした運営や第三者の関与など、公正性が担保された仕組みで上記プロセスが実践されている
(利害関係者のみによるブラックボックス化された運用になっていない、お手盛りが許されない運用となっている)
b.上記仕組みの実効性が評価されている(阻害要因が存在しない)

上場企業である限り、アクティビストの対象になる可能性は常に存在します。

執行部門や指名委員会による備えが重要であり、その重要性はかつてないほど高まっています。

上記に列挙した施策を充足することは一朝一夕に叶わず、段階的に構築する地道さ求められますが、実際に先進的な企業であっても時間をかけて構築しています。

ご不明な点等ありましたら、お問い合わせページからご連絡ください。

(以上)